佐野 涼花1・中山 光広2・庄司 英紀3
1国土交通省北海道開発局(〒053-0816 北海道苫小牧市日吉町2丁目1番5号)
2国土交通省北海道開発局(〒066-0073 北海道千歳市北斗6丁目13番3号)
3株式会社出口組(〒056-0016 北海道日高郡新ひだか町静内本町3丁目3番5号)
苫小牧道路事務所はインフラDX・i-Construction先導事務所に位置づけられており,高規格道路である日高自動車道における改築事業において,建設DXの取組み意識が浸透している.本稿では,建設DXの道路維持管理段階でのGISプラットフォームの将来利用を念頭に,女性視点から考えたクラウド型GISサービスの利用等の改築事業での知見を報告する.
Key Words:DX,i-Construction,Leading office,Cloud service,GIS
1.はじめに
人口減少と少子高齢化の急速な進展に伴って生産年齢人口が減少する中,建設業において技術者の確保が困難となっており,建設産業の担い手確保・育成に向けて,建設業等の働き方改革の実現は急務となっている.この社会環境の変化に対応すべく,建設DXの先導事務所に位置づけられた苫小牧道路事務所は,次の6項目を主眼に取り組みを進めている.
(1)遠隔臨場・フル電子納品(オンライン電子納品)
(2)ICT施工
(3)BIM/CIM
(4)3次元点群データ
(5)地理情報システム(GIS:Geographic Information System,以下GISと記述)
(6)ゼロカーボン(カーボンニュートラル) このうち本論文では,GISについて入門とも言えるGoogleマイマップ1) (以下、マイマップと記述)の実践から,建設DXのGISプラットフォームを意識したArcGIS Online2)の活用検討に至るまでの取り組み事例を紹介する.
2.GISへの認識を変えることからはじめる.
(1)日常,GISの恩恵への認識は低いのが現状 現在は,カーナビやガーミンなどのハンディGPS,
図-1 建設DXへの認識調査(Before:令和4年4月時点)
ハザードマップ,スマートフォンでも表示出来る WebGIS・WMSなどが一般社会に普及し,GISは身近な存在になっている.「GIS」を知らずとも,多くの人はGISに道案内アプリやカーナビに触れたり,何らかのGISの恩恵を受けている.しかしながら建設現場においては,ICT施工やBIM/CIMへの積極的な取り組みは見られるものの,GISは敷居が高いイメージが漠然ともたれており,積極的に活用し働き方改革を進めようという事例がなかなか見受けられない. 日高自動車道の改築事業受注者と苫小牧道路事務所の技術系職員及び監督支援担当技術者を対象とした建設DXに関する意識変化を把握すべく,令和4年4月(Beforeとして)と令和4年12月(Afterとして)2 の「各項目について自分の仕事に関連性が深くすで に活用を行っているか」の問いにより活用意識の変 化についてアンケートを実施した.図-1より受注者においては,遠隔臨場やICT施工への意識が高いが,BIM/CIMとGISに関しては活用意識が低いことが示された.技術系職員及び監督支援担当技術者においては,受注者ほどの活用意識の高さは見られず,特にBIM/CIMが低いことが目立つ.またGISに対しても活用意識は低い. そこで,当事務所では土木技術者のみならず建設現場の作業員に至るまで,一般に普及しているGISアプリケーションである大手インターネットサービス会社が提供するウェブマッピングプラットフォームのコンシューマ向け地図マイマップを積極的に活用し,皆が建設DXの働き方改革の恩恵を受けられないか模索した.
(2)GISのハードルを下げるマイマップ活用 マイマップの活用における利点は,日常生活でのツールを使用し情報が見られるため,GIS技術を活用している感覚が薄く,データ作業に馴染みのない従事者でもGISに対して苦手意識なく利用が可能である.
(3)マイマップ活用の事例 ひとりでも多くの方にマイマップの活用を促すべく,いろいろな手法を試みた.それらを以下に示す.
ア 苫小牧道路事務所の委託運転手とのダンプ 出入り口などのマイマップ共有(写真-1)
イ 現場への資材搬入車両との資材取卸位置などのマイマップ共有(写真-2)
ウ 常に懐のスマートフォンにある維持台帳図~台帳図のマイマップ化~(図-2)
(4)マイマップの活用を実践したなかで気付かされたインターフェースの重要性 知識レベルを問わず多くのユーザにマイマップを使ってもらうためには,インターフェース(接点)を工夫する必要が有ることが判明した.単にメールやLINEなどでリンク先を知らせても,なかなか活用の行動には移らないことが多い. 単純にワンタップでマイマップを表示することが必要である.以下に有効と考えられる方法を示す.
ア 直接目的のサイトを表示できるQRコード
イ スマートフォンのホーム画面に直接目的のサイ トを表示できるショートカット
3.GISプラットフォームの将来利用に向けた取り組み
(1)本格的なGIS活用への課題 マイマップの活用により,データ作業に馴染みのない従事者でも苦手意識なく日常生活でのツールと
写真-1事例その1 ダンプ出入り口
写真-2事例その2 資材搬入車両との資材取卸位置
図-2事例その3 台帳図のマイマップ化
してGIS技術を使用するようになった.これを契機として,今後も様々なデータがオンライン上で共有 されることが想定される. しかしながら,維持管理段階でのGISプラットフォームの将来利用を念頭に置いた場合,データの収集・蓄積・分析・利活用のデータサイクルを回すことが重要であり,以下の課題が挙げられる.
≪GISプラットフォームの利用に向けた課題≫
①データの収集:道路維持台帳図などの情報を一部の従事者が共有.幅広いデータの収集には、多くの従事者の参加が必要.
②データの蓄積:マイマップで作成されるKMLファイル3)には,ファイルサイズに制限があるため,データを効率的に蓄積する方法が必要.
③データの分析:現在はデータの閲覧に特化.本格的なGIS活用には,データベースとしての利用やデータ分析への対応が必要.
④データの利活用:GIS活用に向けたKMLファイルの変換やWebアプリへの対応が必要.
3 表-1ArcGIS製品の概要ArcGIS製品デスクトップアプリオンラインアプリ動作環境
•ハイスペックPCが必要
•インストールが必要
•一般的なWebブラウザが動作可能なタブレット・PC
•インストール不要通信環境
•オフライン利用可※一部のサービス利用には通信環境が必要
•通信環境が必要※オフラインで利用可能なWebアプリあり特徴
•ローカルまたはサーバ上にデータ保存•GIS知識があれば高度な解析が可能
•クラウド上でデータ共有•簡単な操作で使用できるWebアプリを構築可能ArcGIS ProArcGIS Online簡易的な環境で取組み可能
(2)課題に対応したArcGIS製品の使用 本取り組みでは,この課題に対応するツールとして,デスクトップアプリ「ArcGIS Pro」とオンラインアプリ「ArcGIS Online」という2つの製品を使用した(表-1). ArcGIS Proは,地理情報および関連情報を統合し,利活用するための一連の機能(情報の可視化/解析,データの作成/管理/出力 等)が利用可能な高機能デスクトップアプリである.一方,ArcGIS Onlineは,業務に特化したWebアプリを作成することで,他のユーザーのデータに,いつでもどこでも,必要 な時にアクセス可能なオンラインアプリである.
(3)GISの取り組み体制 GISの取り組みは,多くの従事者に参加してもらうことが目標である.そのため,ArcGIS製品の使用にあたり,GISデータの取り扱いに慣れている従事者を『GIS運用者』と設定し,デスクトップアプリ「ArcGIS Pro」を使用した一連のGISデータの取り扱い,GISプラットフォームの基盤やWebアプリの構築を実施する体制とした.
4.ArcGISによるデータ収集と蓄積
前述の通り,マイマップで作成されるKMLファイルを効率的に収集・蓄積する方法が課題である.ここでは,GISデータとしての効率的な収集・蓄積について報告する.本取り組みにおいては,KMLファイルをGISデータに変換することで対応した.
(1)データ形式によるデータ容量の違い 効率的にGISデータとして収集・蓄積するためには,データ容量を抑えることが重要である.ここでは,日高自動車道の竣工図面のKMLファイルを対象として,複数のデータ形式に変換した際のデータ容量の違いについて検証結果を図-3に示す. 本検証においては,
③タイルレイヤーによるデータ形式の容量が最も軽く,表示速度が最も向上した. 45 62 28 15 010203040506070KMLファイル
①GISデータ変換 ②データ結合後 ③タイルレイヤーデータ容量(MB)フィーチャレイヤータイルレイヤーデータ形式によりデータ容量や表示速度が異なる
図-3データ形式によるデータ容量の違い (日高自動車道の竣工図面の場合)
表-2 データ形式の概要と特徴データ容量テータ形式の概要特徴KMLファイル45.4MB
•オリジナルデータ
①GISデータ変換61.8MB•KMLファイルをGISデータ変換した状態•108,453件のレコード•レコード数が多く、データの表示に時間がかかる
②データ結合後28.2MB•色情報でデータ結合(ペアワイズディゾルブ)•24件のレコード•データ結合によりデータ容量が軽くなり、表示速度がある程度向上③タイルレイヤー12.4MB•比較的静的なデータを視覚化するための形式•データ容量が軽く、データの表示が速い•編集を行わず下図として使用するデータに有効
図-4 建設DXへの認識調査
ただし,視覚化に特化したデータ形式であり,データ編集が伴うデータには不向きであるため,使用目的に合わせた選択が必要である(表-2).
5.ArcGIS Onlineによる
ニーズに合わせたWebアプリの構築 (1)外部サービス(クラウドサービス)を利用した 取り組みについて 本取り組みでは,公示用等資料のデータを効率的に蓄積する方法として,米国Esriが提供するクラウ ドサービスを利用している. クラウドサービスについては,十分な情報セキュ リティ対策及び管理策がなされているかをチェックリストにて確認した上で,外部サービス(クラウド4 サービス)の利用申請手続きを行い,許可が完了することで利用が可能である.
6.建設DXへの意識の変化
2.(1)に前述した,日高自動車道の改築事業受注者と苫小牧道路事務所の技術系職員及び監督支援担当技術者へ建設DXに関する活用意識調査の令和4年12月(After:時点)での結果によると,双方においてすべての項目に対して意識の上昇が見られた.GISに関しては,まだ活用意識を高める伸びしろがあるため,今後も活用を促す努力が必要と認識した.(図-4)
7.GISの活用における効果
(1)入門編のマイマップについて
① スマートフォンで即時,情報やスキルを得ることができるため,作業従事者のスキルアップが図られ,労働時間短縮や作業コストの縮減につながり,生産性が向上した.
② 作業予定箇所,調査結果報告を“見える化”し共有することにより,現場確認作業の減少,移動時間の減少,作業効率の向上,ペーパーレス化が実現されており,カーボンニュートラルやコスト削減に貢献している.
③ 伝達に必要な道路情報をクラウドサービスや地図上に反映させることで視覚的に情報を伝達可能なため,現場作業従事者や発注者,第三者へ道路情報を説明する際,より理解を得ることが可能となった.
④データの取り扱いに慣れていない作業従事者でも日常ツールを活用した日々の作業の中で情報に触れる機会が多くなるため,自然に技能習得が可能となった.
(2)ArcGIS Onlineについて
① マイマップで実施したい内容は,ArcGISOnlineを介することでKMLファイルを読み込む際の親和性が高く,無理なくデータを引継ぎできることが可能となった.
② 機密情報について,データ活用の範囲を利用者ごとに設定することで活用シーンに応じた様々なセキュリティ対応が可能となった.
8.まとめ
従来のGIS活用方法においては,一般にはデータを扱いづらく,PC等スペックが高い端末が必要であり,図面やデータの取り扱いは専門知識を有した技術者でなくては扱えないという固定概念があった.しかし,今回の取り組みにより,誰もが手軽に操作しているスマートフォンで馴染みのあるGISサービスアプリケーションを活用し,道路情報の“閲覧手順の簡素化・見える化・データの携帯”及び,今後現場作業でのGIS技術のさらなる常用化の可能性が明らかとなった.改築事業において蓄積したGISデータは,そのまま道路維持管理に活用できるとともに,比較的複数年の恒常雇用を行う通年維持除雪工事においては,GISサービスアプリケーションを使い続けることで練度が増すことから更なる働き方改革につながるものと考える. 今後は,建設DXのGISプラットホームとなるArcGIS Onlineでの構築を進め,多様なニーズにも素早く対応できるようなデータマネジメント手法の確立にも先導事務所の取り組みとして深化させていきたい.
謝辞:本論文を執筆するにあたり,快くアンケート調査にご協力していただいたみなさまに深くお礼申し上げます.
参考文献
1) Googleマイマップ(Google), https://www.google.co.jp/intl/ja/maps/about/mymaps/
2) ArcGIS Online(ESRIジャパン), https://www.arcGIS.com/index.html
3) KML(ESRIジャパン 参考情報), https://doc.arcGIS.com/ja/arcGISonline/reference/KML.htm (2023. 5.?受付)
RESEARCH ON ROAD CONSTRUCTION PROJECT FOR DEGITAL TRANSFORMATION OF ROAD MAINTENANCE Suzuka SANO,Mitsuhiro NAKAYAMA and Hideki SHOJI
The Tomakomai Road Office is positioned as a leading office for DX of Infrastructure and i-Construction.Construction DX initiatives are spreading in the road construction projects on the Hidaka Expressway, a high-standard highway. This paper reports on the opinion of the road construction projects such as the use of cloud-type GIS services from the perspective of women, with the future use of the GIS platform in the road maintenance stage of Infrastructure digital transformation in mind.
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