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■論文■ 道路維持管理の建設DXへ活かす改築事業の知見-女性視点から考えた映えるクラウド型GISサービスの志向-

目次

第66回(2022年度) 北海道開発技術研究発表会論文
道路維持管理の建設DXへ活かす改築事業の知見-女性視点から考えた映えるクラウド型GISサービスの志向-

室蘭開発建設部 苫小牧道路事務所 第2工務課  ○佐野 涼花
  室蘭開発建設部 道路施工保全官   中山 光広
株式会社出口組 工事部 工事係長   庄司 英紀

 苫小牧道路事務所はインフラDX・i-Construction先導事務所に位置づけられており、高規格幹線道路である日高自動車道における改築事業において、建設DXの取組み意識が浸透している。本稿では、建設DXの道路維持管理段階でのGISプラットフォームの将来利用を念頭に、女性視点から考えたクラウド型GISサービスの利用等の改築事業での知見を報告する。

キーワード:インフラDX、i-Construction、先導事務所、クラウド、GIS


1.はじめに

 人口減少と少子高齢化の急速な進展に伴って生産年齢人口が減少する中、建設業において技術者の確保が困難となっており、建設産業の担い手確保・育成に向けて、建設業等の働き方改革の実現は急務となっている。この社会環境の変化に対応すべく、建設DXの先導事務所に位置づけられた苫小牧道路事務所は、次の6項目を主眼に取り組みを進めている。
(1)遠隔臨場・フル電子納品(オンライン電子納品)
(2)ICT施工
(3)BIM/CIM
(4)3次元点群データ
(5)地理情報システム(GIS:Geographic  Information System、以下GISと記述)
(6)ゼロカーボン(カーボンニュートラル)
 このうち本論文では、GISについて入門とも言えるGoogleマイマップ1)(以下、マイマップと記述)の実践から、建設DXのGISプラットフォームを意識したArcGIS Online2)の活用検討に至るまでの取り組み事例を紹介する。

2.GISへの認識を変えることからはじめる。

(1)日常、GISの恩恵への認識は低いのが現状 

 現在は、カーナビやガーミンなどのハンディGPS、ハザードマップ、スマートフォンでも表示出来るWebGIS・WMSなどが一般社会に普及し、GISはより身近な存在になっている。「GIS」を知らずとも、多くの人はGISに道案内アプリやカーナビに触れたり、何らかのGISの恩恵を受けている。しかしながら建設の現場においては、ICT施工やBIM/CIMへの積極的な取り組みは見られるものの、GISは敷居が高いイメージが漠然ともたれており、積極的に活用し働き方改革を進めようという事例がなかなか見受けられない。
 日高自動車道の改築事業受注者と苫小牧道路事務所の技術系職員及び監督支援担当技術者を対象とした建設DXに関する意識変化を把握すべく、令和4年4月(Beforeとして)と令和4年12月(Afterとして)の「各項目について自分の仕事に関連性が深くすでに活用を行っているか。」の問いにより活用意識の変化についてのアンケートを実施した。図-1より受注者においては、遠隔臨場やICT施工への活用意識が高いが、BIM/CIMとGISに関しては活用意識が低いことが示された。図-2より技術系職員及び監督支援担当技術者においては、受注者ほどの活用意識の高さは見られず、特にBIM/CIMの低いことが目立つ。これは、発注者が3次元モデルを必要に迫られて自ら作図するなどの接触機会が無いことが考えられる。またGISに対しても活用意識は低い。

図-1 受注者の建設DXへの認識調査(Before:令和4年4月時点)

図-2 発注者・監督支援業務の建設DXへの認識調査(Before:令和4年4月時点)

 そこで、当事務所では土木技術者のみならず建設現場の作業員に至るまで、一般に普及しているGISアプリケーションである大手インターネットサービス会社が提供するウェブマッピングプラットフォームのコンシューマ向け地図(以下、マイマップと記述)を積極的に活用し、皆が建設DXの働き方改革の恩恵を受けられないか模索した。

(2)GISのハードルを下げるマイマップ活用

 マイマップの活用における利点は、日常生活でのツールを使用し情報が見られるため、GIS技術を活用している感覚が薄く、データ作業に馴染みのない従事者でもGISに対して苦手意識なく利用が可能である。

≪マイマップの利点≫
ア 普及率が9割を超えたスマートフォンの常用性(日常から操作への慣れ)、通信料金が安価
イ リアルタイムに閲覧共有可能
ウ 編集権限を与えたユーザと共同作業可能
エ 日常生活での活用工夫が反映出来るため、無理のない技術研鑽が可能

(3)マイマップ活用の事例

 ひとりでも多くの方にマイマップの活用を促すべく、いろいろな手法を試みた。それらを以下に示す。

ア 苫小牧道路事務所の委託運転手とのダンプ出入り口などのマイマップ共有(写真-1)

写真-1 事例その1 ダンプ出入り口

イ 現場作業員やオペレーターとの作業箇所の確認などのマイマップ共有(写真-2)

写真-2 事例その2 現場における作業箇所の確認

ウ 現場への資材搬入車両との資材取卸位置などのマイマップ共有(写真-3)

写真-3 事例その3 資材搬入車両との資材取卸位

エ 現場視察や見学への案内としてマイマップ共有(写真-4)

写真-4 事例その4 現場視察や見学への案内

オ 会議(工事円滑化会議、設計変更確認会議)や打合わせ時の資料としてマイマップ共有(図-3)

図-3 事例その5 円滑化会議など打合わせ時の資料(マイマップからGoogle Earth3)へ出力)


カ マイマップで宝探し。安価に“楽しむ現場”を演出!(写真-5)

写真-5 事例その6 マイマップで宝探し

キ 常に袖のスマホにある維持台帳図~台帳図のマイマップ化~(図-4)

図-4 事例その7 台帳図のマイマップ化

カ エゾシカのロードキル分布をマイマップにより一般公開(図-5)

図-5 事例その8 エゾシカロードキル分布

(4)マイマップの活用を実践したなかで気付かされたインターフェースの重要性

 知識レベルを問わず多くのユーザにマイマップを使ってもらうためには、インターフェース(接点)を工夫する必要が有ることが判明した。単にメールやLINEなどでリンク先を知らせても、なかなか活用の行動には移らないことが多い。単純にワンタップでマイマップを表示することが必要である。以下に有効と考えられる方法を示す。
ア 直接目的のサイトを表示できるQRコード
イ スマートフォンのホーム画面に直接目的のサイトを表示できるショートカット
 なお、複数のリンクボタンなどを並べ、選択を迫る方法は、ユーザに混乱を招くため注意が必要である。

3.GISプラットフォームの将来利用に向けた取り組み

 ここでは、日高自動車道の維持管理段階でのGISプラットフォームの将来利用を念頭に、GISソフトウェア製品であるArcGISによる本格的なGIS活用に向けた取り組みを報告する。

(1)本格的なGIS活用への課題

 マイマップの活用により、データ作業に馴染みのない従事者でも苦手意識なく日常生活でのツールとしてGIS技術を使用するようになった。これを契機として、今後も様々なデータがオンライン上で共有されることが想定される。
 しかしながら、維持管理段階でのGISプラットフォームの将来利用を念頭に置いた場合、データの収集・蓄積・分析・利活用のデータサイクルを回すことが重要であり、以下の課題が挙げられる。

≪GISプラットフォームの利用に向けた課題≫
① データの収集:道路維持台帳図などの情報を一部の従事者が共有。幅広いデータの収集には、多くの従事者の参加が必要。
② データの蓄積:マイマップで作成されるKMLファイルには、ファイルサイズに制限があるため、データを効率的に蓄積する方法が必要。
③ データの分析:現在はデータの閲覧に特化。本格的なGIS活用には、データベースとしての利用やデータ分析への対応が必要。
④ データの利活用:GIS活用に向けたKMLファイルの変換やWebアプリへの対応が必要。

(2)課題に対応したArcGIS製品の使用

 本取り組みでは、この課題に対応するツールとして、デスクトップアプリ「ArcGIS Pro」とオンラインアプリ「ArcGIS Online」という2つの製品を使用した(表-1)。ArcGISは、米国Esriが提供する 世界トップシェアを誇るGISソフトウェア製品1)であり、日本国内においても、民間企業、各省庁、地方自治体、研究機関、大学等の様々なシーンで広く利用されている。
 ArcGIS Proは、地理情報および関連情報を統合し、利活用するための一連の機能(情報の可視化/解析、データの作成/管理/出力 等)が利用可能な高機能デスクトップアプリである。GIS知識があれば高度な解析が可能であるが、ハイスペックPCへのソフトウェアのインストールが必要であり、GIS知識が多く求められる点が特徴である。
 一方、ArcGIS Onlineは、業務に特化したWebアプリを作成することで、他のユーザーのデータに、いつでもどこでも、必要な時にアクセスして利用可能なオンラインアプリである。一般的なWebブラウザが動作可能なタブレット・PCで使用することができるため、デスクトップアプリに比べて簡易的な環境でGISの取り組みが可能となっており、基本的に通信環境が必要である点(現地調査用Webアプリなどでは、オフラインで利用可能)が特徴である。

表-1 ArcGIS製品の概要

(3)GISの取り組み体制

 GISの取り組みについては、多くの従事者に参加してもらうことが目標である。そのため、ArcGIS製品の使用にあたって、GISデータの取り扱いに慣れている従事者を『GIS運用者』と設定し、デスクトップアプリ「ArcGIS Pro」を使用した一連のGISデータの取り扱い、GISプラットフォームの基盤やWebアプリの構築を実施する体制とした。また、日常的にGISに慣れていない従事者は、『GIS利用者』と設定して、オンラインアプリ「ArcGIS Online」を使用し、運用者が構築したWebアプリで閲覧する体制とした。
 これにより、GISに苦手意識のある従事者にも取り組みやすく、GIS導入のハードルを下げるようにした。

4.ArcGISによるデータ収集と蓄積

 前述の通り、マイマップで作成されるKMLファイルを効率的に収集・蓄積する方法が課題である。ここでは、KMLファイルの概要と、GISデータとしての効率的な収集・蓄積について報告する。

(1)KMLファイルの概要

 KMLファイルは、ArcGIS EarthやGoogle Earthなどのアプリケーションで地理フィーチャを表すために使用されるXMLベースのファイル形式である2)。多くの無料アプリケーションで表示できるため、非GISユーザーと地理データを共有するための一般的な形式になっている。
 一方、3D地表ブラウザーでフィーチャー(ポイント、ライン、またはポリゴン)を表示するために作成されたファイル形式であり、2D画面では正常に動作しないことがある。ArcGIS Onlineにおいても、一部の機能に制限があるため、本取り組みにおいては、KMLファイルをGISデータに変換することで対応した。
 なお、ArcGISを開発する米国Esriでは、引き続きKMLファイルのサポートを拡大する予定である。

(2)データ形式によるデータ容量の違い

 効率的にGISデータとして収集・蓄積するためには、データ容量を抑えることが重要である。ここでは、沼ノ端IC~厚真IC間の竣工図面のKMLファイルを対象として、複数のデータ形式に変換した際のデータ容量の違いについて検証し報告する。(図-6)

≪データ形式によるデータ容量の違い≫
① GISデータ変換:KMLファイルをGISデータ変換した状態(フィーチャレイヤー)。レコード数が多く、データ表示に時間がかかる。本検証においては、オリジナルデータのKMLファイルよりもデータ容量が増加。
② データ結合後:KMLファイルに含まれる色情報からデータ結合したデータ形式(フィーチャレイヤー)。データ容量が軽くなり、表示速度がある程度向上。
③ タイルレイヤー:データ編集を行わず下図として使用するデータに有効なデータ形式。データ容量が最も軽くなり、表示速度が最も向上。

図-6 データ形式によるデータ容量の違い
(日高自動車道 沼ノ端IC~厚真IC間の竣工図面の場合)

 本検証においては、③タイルレイヤーによるデータ形式の容量が最も軽く、表示速度が最も向上した。ただし、視覚化に特化したデータ形式であり、データ編集が伴うデータには不向きであるため、使用目的に合わせた選択が必要である。

表-2 データ形式の概要と特徴

5.ArcGIS Onlineによるニーズに合わせたWebアプリの構築

ここでは、ArcGIS Onlineによるニーズに合わせたWebアプリの構築について報告する。

(1)ArcGIS Onlineの種類と特徴


 ArcGIS Onlineでは、オンライン上にアップロードしたデータをWebブラウザー上で表示するクラウドGIS「マップビューアー」(編集者向け)の他、データの表示に特化した「Webアプリ」(閲覧者向け)を作成することができる。(表-3)

表-3 ArcGIS Onlineの種類と特徴

 「マップビューアー」は、ArcGIS Onlineの標準的なクラウドGISであり、データテーブル、凡例、ラベルの表示設定に加え、計測、チャートの作成などのGIS機能、新規データの追加が可能である。(図-7)

図-7 ArcGIS Onlineのマップビューアーの表示例

 一方、データ表示に特化した「Webアプリ」は、オンライン上にアップロードしたデータを使用目的に合わせて表示方法を変更したり、機能を内蔵したりすることで、独自のマップをノンプログラミングで構築が可能である。(図-8)なお、3D表示が可能なWebアプリもあるため、Google Earthのような使用も可能である。(図-9)

図-8 ArcGIS OnlineのWebアプリの表示例

図-9 ArcGIS OnlineのWebアプリ(3D)の表示例

(2)外部サービス(クラウドサービス)を利用した取り組みについて

 本取り組みでは、公示用等資料のデータを効率的に蓄積する方法として、米国Esriが提供するクラウドサービスを利用している。クラウドサービスについては、十分な情報セキュリティ対策及び管理策がなされているかをチェックリストにて確認した上で、外部サービス(クラウドサービス)の利用申請手続きを行い、許可が完了することで利用が可能である。なお、今回は、維持管理台帳図などのCAD図面が主であったが、機密情報の格付けを上げることで、より機密性の高い情報を取り扱うことが出来るため、データ活用の範囲が広がる。

6.建設DXへの意識の変化

 2.(1)に前述した、日高自動車道の改築事業受注者と苫小牧道路事務所の技術系職員及び監督支援担当技術者へ建設DXに関する活用意識調査の令和4年12月(After:時点)での結果によると、双方においてすべての項目に対して意識の上昇が見られた。GISに関しては、まだ活用意識を高める伸びしろがあるため、今後も活用を促す努力が必要と認識した。(図-10、図-11)

図-10 受注者の建設DXへの認識調査(After:令和4年12月時点)

図-11 発注者・監督支援業務の建設DXへの認識調査(After:令和4年12月時点)

7.GISの活用における効果

 今回の取組みにより以下の効果が確認された。

(1)入門編のマイマップについて

① スマートフォンで即時、情報やスキルを得ることができるため、作業従事者のスキルアップが図られ、労働時間短縮や作業コストの縮減につながり、生産性が向上した。
② 作業予定箇所、調査結果報告を“見える化”し共有することにより、現場確認作業の減少、移動時間の減少、作業効率の向上、ペーパーレス化が実現されており、カーボンニュートラルやコスト削減に貢献している。
③ 伝達に必要な道路情報をクラウドサービスや地図上に反映させることで視覚的に情報を伝達可能なため、現場作業従事者や発注者、第3者へ道路情報を説明する際、より理解を得ることが可能となった。
④ データの取り扱いに慣れていない作業従事者でも日常ツールを活用した日々の作業の中で情報に触れる機会が多くなるため、自然に技能習得が可能となった。

(2)ArcGIS Onlineについて


① マイマップで実施したい内容は、ArcGISOnlineを介することでKMLファイルを読み込む際の親和性が高く、無理なくデータを引継ぎができることを可能となった。
② 機密情報について、データ活用の範囲を利用者ごとに設定することで活用シーンに応じた様々なセキュリティ対応が可能となった。

8.まとめ

 従来のGIS活用方法においては、一般にはデータを扱いづらく、PC等スペックが高い端末が必要であり、図面やデータの取り扱いは専門知識を有した技術者でなくては扱えないという固定概念があった。しかし、今回の取り組みにより、誰もが手軽に操作しているスマートフォンで馴染みのあるGISサービスアプリケーションを活用し、道路情報の“閲覧手順の簡素化・見える化・データの携帯化”が可能であるとともに、現場作業でのGIS技術のさらなる常用化の可能性が明らかとなった。改築事業において蓄積したGISデータは、そのまま道路維持管理に活用できるとともに、比較的複数年の恒常的な作業員やオペレータの雇用を行う通年維持除雪工事においては、GISサービスアプリケーションを使い続けることで練度が増すことから更なる働き方改革につながるものと考える。
 今後は、建設DXのGISプラットホームとなるArcGIS Onlineでの構築を進め、多様なニーズにも素早く対応できるようなデータマネジメント手法の確立にも先導事務所の取り組みとして深化させていきたい。

謝辞:本論文を執筆するにあたり、快くアンケート調査にご協力していただいたみなさまに深くお礼申し上げます。

参考文献
1) Googleマイマップ(Google),https://www.google.co.jp/intl/ja/maps/about/mymaps/
2) ArcGIS Online(ESRIジャパン),https://www.arcgis.com/index.html
3) Google Earth(Google),https://www.google.co.jp/intl/ja/earth/
4) ESRIジャパンの取り組み(ESRIジャパン),https://www.esrij.com/activities/quality/
5) KML(ESRIジャパン 参考情報),https://doc.arcgis.com/ja/arcgis-online/reference/kml.htm
6) 第65回(2021年度)北海道開発技術研究発表会
 ICT・クラウドサービスを用いた道路維持管理~道路附属物のID統一から創める年維持技術者の働き方改革の志向~


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